作戦任務報告書(Tactical Mission Report)

May 5th, 2008

作戦任務報告書
第XXI爆撃機集団司令部
作戦任務40番
目標:東京の市街地
飛行1945年3月10日

昭和62年発行の『写真版 東京大空襲の記録(早乙女勝元編著、新潮社)』の中で「数年前」と書かれていることから、恐らく80年代前半のことだと思われるが、米国立公文書館から、東京大空襲に関する米軍側のある重要な機密文書が解禁となった。それが、『作戦任務報告書(Tactical Mission Report)』である。

『作戦任務報告書(Tactical Mission Report)』は、B29の日本本土爆撃に直接的な責任を負う米陸軍マリアナ基地第21爆撃機軍団司令部が、3月10日を中心とする東京空襲をどのように準備し、実施したかを記録したものであり、同司令部の司令官カーチス・E・ルメイ少将が、主要な爆撃ごとにワシントンの航空司令官ならびに関係方面に提出した報告書である。

当時の米軍内向けの資料であることや、作戦の調査記録のためにあらかじめ綿密な準備をしていたことが明らかであることなどから、ここに書かれた内容はかなり事実を正確に表したものだと考えられ、戦後の東京空襲関連の研究者にとって非常に重要な一次情報となった。

1945年3月10日の空襲については、「野戦命令43号 作戦任務40番 目標:日本、東京の市街地」の部としてまとめられており、1945年4月15日付けでルメイのサイン入りで発行されている。内容は、次のような事項に関する詳細な報告である。

戦略と計画についての報告

  • 攻撃日の選定について
  • 攻撃目標について
  • 照準点について
  • 爆撃の手順について
  • 爆弾の搭載量について
  • 航行経路について
  • 飛行技術について
  • レーダーの計画と対策について
  • 空海救助計画について

任務の実行結果の報告

  • 離陸について
  • 往路について
  • 目標上空について
  • 帰投路について
  • 着陸について

この3月10日空襲の部には「まえがき」がつけられている。作戦任務報告書に「まえがき」がつくのは例外的なことだという[新版 東京を爆撃せよ(奥住喜重・早乙女勝元)]。それだけこの日の作戦が特別なものであったことを示唆している。

「まえがき」では、まず、この3月10日の作戦が、B29によるそれまでの東京空爆の方法、つまり高高度からの昼間精密爆撃によって軍事工場などを攻撃するというスタイルを大きく変更し、低高度からの夜間焼夷空襲を行うことにした、と書かれている。その利点が五つあげられている。

  1. 気象上の条件がよくなる
    低高度なら、日本上空の強い偏西風の影響を受けにくい。
  2. レーダー装置が使いやすくなる
    低高度の方がレーダーが鮮明になる。
  3. 爆弾搭載量が増加する
    低高度なら燃料を減らせ、また夜間なら機銃類を減らせる。その分爆弾を多く積める。
  4. 整備が一層簡単になり改善される
    低高度の飛行はエンジンへの負担が少ないので、整備上の問題が減る。
  5. 爆撃精度がよくなる
    低高度なら爆撃誤差が少ない。一般的に敵の反撃を受けやすくなると考えられるが、現状日本側の防衛能力は低いと考えられる。

そして「まえがき」の最後には、次のような一文が加えられている。

 これら一連の空襲の目的が、一般市民を無差別に爆撃することでなかったことは注目すべきである。その目的は、これら4つの主要都市(東京、名古屋、大阪、神戸)の市街地に集中している工業的および戦略的な目標を破壊することであった。

1943年ごろから、アメリカ政府は、日本の都市への大規模焼夷弾攻撃を検討していたという。日本の都市は極めて燃えやすく、また日本の工業目標は少数の大都市に集中しており、密集した民家に囲まれている。つまり特定の施設をピンポイントで狙う精密爆撃よりも、街全体を焼き払う焼夷攻撃の方がずっと効果が高いという考えだ。

このような戦術に対して、当然、人道的な見地から多くの反対意見があった。陸軍航空司令官のアーノルド大将も、はじめは工業目標に対する精密爆撃に期待していた。しかし莫大な費用を投じて導入したB29による精密爆撃の成果が上がらなかったため、やがて考えを変え、都市を焼き払うという作戦への移行を決意する。

「まえがき」の最後の一文においてルメイは、3月10日から開始された市街地への無差別絨毯爆撃の正当性を不自然なほど強調しているが、これは、反対派の世論を意識したものと考えられるだろう。しかし実行された作戦は、一般市民への無差別爆撃以外の何ものでもなく、工場や基地の破壊よりも、人の命と生活を大規模に奪い取ることを目的としていた。

客観的な事実を克明に記録したこの報告書において、この「まえがき」の一文だけが、妙に強引な詭弁であるように見えて、興味深い。

『作戦任務報告書』の3月10日の部の全訳を、『新版 東京を爆撃せよ(奥住喜重・早乙女勝元 共著、三省堂)』で読むことができる。また東京大空襲・戦災資料センターには同報告書のコピーが展示されている。

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